日々、これ口実

自分の感じたこと、思ったこと、ただの雑記

手ガリと塩タブレット

これははんドンクラブ Advent Calendar 2022の12月14日の記事になります。

adventar.org

2022年はほんとうにいろいろとありましたが、なんといってもゆるキャン△の映画が公開されましたね。いろんな層にゆるキャン△が届いているのがわかりファンとしてとても嬉しかったです。

早くもAmazonPrimeで視聴できるようになっていることですし今更ネタバレもないと思って書き始めます。見たことがあると楽しめますし未視聴の方でも楽しめる内容だと思います。

ゆるキャン△映画版について

まずは映画版に関してはアニメ版ゆるキャンの独自路線というか二次創作のような流れの作品だと思っています。

細かい事抜きにすると「あれだけ地元でわちゃわちゃするのに千明が後輩2人(13巻から登場)を完全に無視してなにかするわけない」以上!閉廷!解散!

遺跡発掘!

さて、映画版ゆるキャンのストーリの中で一番のキーポイントととなったキャンプ場予定地での遺跡発見。調査のためにキャンプ場の建設がとまってしまっただけではなく、キャンプ場自体も中止になりかけた一番の話の転がり部分でした。

実は私…遺跡発掘やったことあるんです

人生で生きていくためにやって仕事のうちのひとつに遺跡発掘調査があります。「遺跡発掘してたことあるんですよ」などというと大抵の人から「は?」という反応があります。興味をもって質問される…ということもなく大抵は「変わったことをしたんだね」ていどになります。そんなもんです。

実際にやっていた期間はそんなに長くないのですが、2か所で発掘に関わっていました。

映画を見ながらそのことを思い出したので、この機会に簡単ですが書いていこうかと思います。

遺跡を発掘しよう

遺跡発掘にどうやったら参加できるか疑問に思う人も多いでしょう。

私の場合は無料の求人誌を眺めてたら載っていたので応募してすぐ参加することになりました。

面接などもありましたが「免許持ってるか?そしたら来月から新しい現場始まるから5時半に駅にきて」くらいの話で終わりました。あくまで自分のケースなので注意してください。

現場に出てから知っていったのですが、発掘に関わるのは大きく分けて3つの組織です。

  1. 遺跡のある市町村教育委員会の方(とてもえらい)
  2. 1から仕事を受けた元請け会社(えらい)
  3. 2から仕事を受けた下請け会社(つらい)

現場に採用されるとほぼ3の人になります。現場であらゆることをします。

「つらい」と書きましたが、端的に言うと土木の現場作業員なので体力がほぼ9割の仕事になります。そこそこのヒエラルキーの中で怒号と汗と泥に塗れながら頑張っていきます。

このヒエラルキーに属さない人もたまにいます。立場としては3の人になるのですが、ほぼフリーランスで発掘に携わってこの道何十年というベテランがいらっしゃいます。人によっては1から2にかけての発言力ないし、そういう立場だったりするので迂闊なことをすると2の人も怒られたりしていました。こういう方は2の会社の指示の下で重要な現場から現場へいっては要の作業に携わっていらっしゃるようでした。

ゆるキャン映画内でみんなが発掘作業を手伝っていましたが。1の人にお願いしてボランティアみたいなかたちだったんでしょうかね。元請けや下請けの作業員からしたら「なんだこの子達は…?」と思われたのかもしれません。

当たり前だけど契約とか賃金のこととかね。色々あるから!

作業の流れ…その前に

いざ「遺跡を発掘するぞ」と意気込んで現場についてもいきなりあの遺跡の形に開いた穴があるわけでもないので掘っていかなくてはいけません。

場合によっては現場の草刈りからです。自分たちがそうでした。草刈りと言うか…生えているものをきれいにしてしまう作業。あとは現場の周囲をフェンスで囲うことからでした。

範囲はちょっとした*1小学校のグランド1面分ほど。ノコギリで木を切ったり、草刈り機でひたすら草を刈っては集めて処理。その作業の合間にフェンスを立てていきました。

映画の中でフェンスは立てていませんが、木を切ったり草を刈ったりは彼女たちがやっていた作業ですね。地味ですが大事な作業です。

ちなみに私は山村生まれで家の手伝いやなんかで草刈機などこういった作業は手伝っていたので自然に身についていました。

私が関わったときがちょっと特殊な事情があり、私とイタリア人(50代)とフィンランド人(20代)*2の3人チームで作業の殆どをやりました。イタリア人のEはイタリア語と少しの英語、フィンランド人のAは英語と日本語、そして私が日本語と少しの英語。言葉も文化的背景も全く違う3人での作業はなかなかな珍道中(?)になりましたが、それはまた別のお話です。閑話休題

この作業に2週間弱かかりました。このあとにプレハブ小屋の休憩室を立てたりして発掘の作業が始まります。

発掘らしい作業の開始

大まかな流れ

作業の流れは三重県埋蔵文化財センター から引用しますとこんな感じです。

図1 三重県埋蔵文化財センターから

とてもわかりやすい図で説明の手間が省けていいですね。

この図の①にあるように大まかにはパワーショベルでざっくり掘っていきます。

前項3の会社の親方が掘っていき、作業員がそのあとの②と③の作業をひたすらやっていきます。②番の作業が発掘作業のイメージとしてあるかと思います。

道具について

図をもう一つ

図2 同じく三重県埋蔵文化財センターから

この図の上の真ん中と下の真ん中にある道具を主に使います。

大きな作業では主に「スコップ」「ジョレン」土を「てみ」に乗せて処理。

三角ホーとありますが、下にある手ガリと対比で「ガリ」と呼ばれてた気がします。

細かくなっていくと下にある「手ガリ」ここでは移植ゴテと書いてある「手スコ」あとは「手バチ」が使用する道具のほぼ全てです。

掘るのではなく削る

実際に遺構を探していくのですが、大まかな当たりをつけたあとはそれを探すために掘っていくのではなく、土の部分を「削って」いきます。

スコップはこの図では先が丸いものですが、私のいた現場では「角スコ」といって四角いスコップを主に使っていました。それを使い水をまいて粘土状になった土を地面を大体5mmずつ削る技術を身に着けていくことになりました。遺構を掘るときや水はけ用に溝をつくるときはもうちょっと大きく削ることもありましたが、基本的には少しずつ削っていきます。腰を使って柄を押して削っていくのは慣れるまでかなり大変でした。

この作業の間に男女共何人か新しく来ては次の日からみなくなっていました。発掘を開始したのが残暑厳しい9月ということもあり完全に力仕事の土木作業。現場猫案件もありましたし*3。私自身も熱中症で倒れたこともあります*4スポドリと塩タブレットを毎日大量に消費しても防げませんでした。お茶しか飲まない人に渡すこともあり毎日塩タブレットはすごい勢いで減っていきました。

ざっくりとした場所以外は手がりや手スコを使って作業していきます。

詳しくは以下のリンク先を参照していただきたいのですが

shiga-bunkazai.jp

発掘作業の大半は手ガリを使った「ガリかけ」です。

粘土状の土を大体1mmずつ削っていく作業。これがとても難しい。

ガリ/公益財団法人滋賀県文化財保護協会から

どこに土の色がかわるかわからない地面を皮を剥くように削り続ける。大事な出土物や遺構を壊さないようにひたすら薄く、刃を立ててしまうことのないよう、毛羽立つこともないように。

現場の人々

前述したフリーランスのようなベテランの方はガリかけになると参加して来られます。マイ手ガリを何本も持って来られる人もいました。同じように見えてやっぱり刃物になるのでいいものはいいんです。貸してもらうと違いがよくわかりました。

教育委員会の先生も大まかにやっている段階ではいつもいることはなかったのですが、本格的なガリかけになると一緒に作業をして遺構の検出の判断や出土物の回収をされます。ベテランの作業員の方も一緒に判断されたりしていました。「先生」と呼ばれて現場でなにか気がついたらその作業最優先。

元請けの方は一緒に作業をしながら、写真撮影や測量などを軸足とした動きをしていました。

ガリかけ以外の大変な作業

発掘作業以外にも作業中の現場の保全というのにもかなり気を使います。

ガリかけしたあとは安易に踏んではいけないなど、キレイに削った表面には最善の注意を払います。乾きすぎてもいけないし雨に濡れて台無しにならないように一日の作業が終わったら保護シートを被せていきます。これがまた大変で小さい遺構ならシートを一枚かぶせていけますが、25mプール大の遺構となるとシートを何枚も使い雨水が入りこないようにまた端が崩れないようにとても気を遣っていかねばらなず、10人くらいでも30分かかることがありました。小雨なら作業しますが、雨が強いと作業を中止、シート掛けに追われます。台風なんか来たときには現場がどうなるか戦々恐々です。

出土物が出た

遺構を削り出していくのも大事な作業ですが、出土物がでるとテンションが上がります。ただこのへんはベテランの方や先生に任せる事が多かったです。

ガリや手スコの技術がある程度身についていても、遺構をキレイに出したり出土物を欠けなく掘り出すのは難しいです。手ガリをしていくなかで小さい破片を掘り出すことはよくありましたが、土と同化しかけたものを削ってしまうこともありました。

記録していく

遺構がきれいに出るとその周りを白く塗ります。遺跡のニュースなどで柱のあとの穴の縁を白く塗ったものをみたことあると思います。あれもベテランの方がよく塗っていました。そのあとには写真撮影です。

大きな遺構になると高いところから撮影しなければ全景が撮れません。いまならドローンで撮れるんでしょうか。

図2の右のほうに櫓がありますがこれを組んでいくのも仕事です。現場によっては高所作業車を持ってきてらくらくと上からの撮影ができるらしいのですが基本は櫓の上からになるようです。

地面の下で土を削っていたのかと思ったらハーネスをつけて単管を組んで6~7mの場所で高所作業することになるとは思いませんでした。高所恐怖症なので尚更です。

先生が「反対側から撮りたい」といえばバラして運んでまた組んで、もう一度「あっちから」というとバラして運んで組み上げて…大変でした。

発掘調査に関わってみて

一度はやってみたい?

なんかよくわからないけれど一度はやってみたいと思う遺跡発掘のあまり紹介されにくいところを触れてみました。慣れないと本当に大変ですがガリかけをやっていき遺構がわかってくるととても充実感がありました。

またここに書いた作業の大半が半年ほどかけて行われた大きめの現場の印象で書かれています。少人数で1週間ほどで作業した4m×2mほどの遺跡発掘は和やかなものでした。

ゆるキャン△映画内で行われた作業もきっと穏やかな感じだったんでしょう。それでも人手が必要なのはガリかけ。みんなでガリガリとやってたんでしょうね。

あれは本当に難しく奥が深い。

機会があればどこかでやってみたくあります。小規模な遺跡で。

*1:120m×80mくらいあった

*2:いまでもたまに会って飲んだりする

*3:一般的にイメージされる発掘作業を想像して来られた女性が回転するパワーショベルのバケットに吹っ飛ばされてそのまま帰っていったとか

*4:朦朧とした意識の中で現場に散水している人に「水かけて!」と叫んでなんとか体を冷やして助かった